『漁師の息子』(2020年9月23日 大嶋信之著)

(文・イラスト/大嶋信之)

むかし、むかし、村一番の腕と言われる、漁師には一人の息子がいた。

けれど、赤子の時からその姿は誰一人として、見ていない。

漁師仲間「おめえの息子どんは、何してるだ?」

「家で寝ちょる」

息子は3歳頃から、家にひこもっていた。
ほとんど寝たまま過ごし、動かなかった。

嫁「あんた、あの子こんな家に居ていいの?漁に連れて行ったらどうなのさ?」

「あいつにも考えがあるんだろ。ほっておけ。」

息子は、18歳になった。
体はぷくぷくと太っていった。

ある満月の嵐の夜。
明け方に、父が漁に出かけるところに、
息子が珍しく起き上がって言った。

息子「父さん、今日は危険だ。波が荒れちょる。」

父「これくらい、いつものこった、平気ばい。」

息子は、父の釣り竿の中から一本の釣り竿を持ち、父について行った。

父「おめえ、一緒にやるつもりか?」

息子「ああ」

二人で船に乗り込んだ。

波は大荒れ、風も強く雨も土砂降りだった。

他の漁師らが、船を出すのを躊躇する中、親子が乗った船は港を出た。

他の漁師達「あれ息子どんじゃねえか?」

「ああ、きっとそうよ。でもいきなり、こんな波荒れの中ででえじょぶか?」

大荒れの中、大きく太った体の息子の重みで、船は安定し進んだ。

二人は、何年かに一度しか釣れない、大物を釣り上げ港に戻る。

家には、息子が秘かに書いたメモがあった。

なんと、
毎日の天候、気温、父が持っていた釣り竿、釣ってきた魚
などが詳細に記された15年分の大量のメモだった。

それから、毎日のように二人で漁に出かけ、息子も父親同様

村一番の腕前の漁師になったとさ。

めでたし めでたし。


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Nobuyuki Oshima(大嶋 信之)
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