『光の速さ』(2024年12月1日 大嶋信之著)

(文・イラスト/大嶋信之)

ある宇宙飛行士の男が、光の速さまで達することのできる、開発されたばかりの宇宙船に乗り込むことにした。

アインシュタインの相対性理論では、早く移動すればするだけ時間の進みは遅れ、
もし、光の速さ(光速)で移動する乗り物があったら、その中の時間は止まるということになっている。
また、宇宙で最も速いスピードが光速で、光速以上のスピードはこの世に存在しないとされている。

宇宙飛行士のその男は、それを試してみたかった。
もし、船内の時間が止まれば、地球上では時間が進んでいるのだから、帰還したら未来の地球に行くことができると考えた。

出発の日が来た。
男は宇宙船に乗り込み、家族にお別れを告げ、開発した学者などにもお別れを告げた。
「あなた方の未来にお邪魔するかもしれない」と。

ロケットが点火し、勢いよく発射し空に向かっていった。
大気圏を通過し、宇宙空間に無事出ることに成功した。
宇宙船はそのまま加速を続けた。
男は、速度計と時計を観察し続ける。
アインシュタインの言うとおり速度が上がると、時計の進み方が遅れるように見えた。

宇宙船の速度はどんどん上がっていく。
男はどのタイミングで地球に向かうか計算していた。
時間がどんどん遅くなっていくのがわかった。

宇宙船のスピードは、光速の99%まで到達した。
「あと1%で光速だ、そのタイミングで進行方向を地球に向けよう。」
男は思った。

宇宙船は、すでに太陽系からはるか離れた場所まできていた。
ついに宇宙船は光速に達した。
その瞬間だった!

船内の時計の針が止まったのだ。
宇宙船を地球に向けなくてはならない。
しかし、それはできずにいた。
なぜなら、男のからだもピタッと止まったまま動くことすらできていない状態になってしまったのだ。
フリーズしたコンピューターゲームのように、船内の時間が完全に止まってしまった。
宇宙船はUターンすることもできず、光速で地球から遠ざかっているため、電波による地球との交信もできない状態になっていた。
こうして男は、地球への帰還を果たすことができなかった。

宇宙船は今でも光速で地球から遠ざかっている。
いつか宇宙の果てに到達するかもしれない。
または燃料が切れてスピードが落ちれば、時計は再び回り出し、男も動き出すだろう。
しかし、その時は地球に戻れるだけの燃料はない。

おわり。


Home 作家活動(短編小説、絵本など) 『光の速さ』(2024年12月1日 大嶋信之著)

Nobuyuki Oshima(大嶋 信之)
プロフィール

Email
info@nobart.com

Follow me

サイトインフォメーション

ページカテゴリー
ブログ(投稿記事)カテゴリー